マルオ洋品店のブログ

兵庫県稲美町のマルオ洋品店の店長のブログです。

まるたの母 昭和物語 2008年春掲載分

※この記事は2008年の春にまるたの母が書いたものです

 この冬は年明けから寒い日が続き、特に二月に入り瀬戸内沿岸のこの播州地方にも雪が降る日も多く、徒然なるままに日暮らし、炬燵に向かい過ごしたいと思う日々でした。とはいえ、弥生三月、お雛祭り、もう春ですね。庭にはいつの間にか植木の下に、ハコベゴギョウ・雑草がたくさん生い茂っています。春の七草とはいえ私にとってはいやな雑草です。今のうちになんとかしないと、いっぱい種をつけてのちのちこの雑草たちに苦しめられることになるのです。でもちょっと嬉しいものもあります。それは静かに紫の花を咲かせている寒あやめです。庭を通るときちらっと眺めては花の数を数えて一人楽しんでいます。
 
 前述のお雛様ですが、今年は長い間眠っていたお雛様を一大決心して飾ることにしました。二十五年前実家の両親が娘のために贈ってくれたものです。私の大好きなりっぱなお雛様です。息子たちが使っていた八畳二間の床の間、長い間物置同然になっていましたが昨年から少しずつ片づけて、なんとか広くなりました。今は役目を終えたような家ですが、かれこれ六十年前主人の父と母が新しい人生を歩み出した家です。その家の二階の新しい住人?お内裏様が緋い毛氈の段々に仲良く並びました。三人官女・五人囃子・三人仕丁・お道具も飾り、裸の市松人形には娘の一つ身の着物をきせ、結び帯に、赤いしごきも下げました。頭にはピンクのリボンをつけ、かわいい市松さんになりました。お道具の長持には母が作ってくれた小さな布団も納めました。初節句に親戚からいただいたケース人形も飾りやっと完成しました。古い家にお雛様がよく似合っています。

 書院からやわらかな早春の陽がそそぎます。そんな床の違い棚に、くす玉がひとつさがっています。これはずっと前からここに飾ってあります。前の住人まるたが飾ったものです。カタログを配っていたまるたが、あるお宅でいつも縁側にいらっしゃるおばあさんにいただいたものです。まるたの亡くなったお祖父さんの同級生の方のお母さんなので、きっと九十幾つになられていたと思います。たくさんの色とりどりの折り紙を折ってきれいに作られています。長い人生の年輪がひとつひとつの折り紙に込められ、暖かさと優しさがいっぱい詰まっているように思われます。

 「お雛様飾ったよ。」と言ったあと、まるたは一度だけ二階に上がってのぞいていました。「どうやった。」と言う私に「俺はお雛様に興味はない。」と一言・・・・
 毎日二階に上がって一人でお雛様を眺めご満悦のまるたの母です。